あなたが担当している新入社員は、質問や相談が苦手で、ただただ時間を無駄にしてしまっていることはありませんか?
こうした状況は、新入社員にとってみると仕事を前に進めることが難しく、イライラや不安を増大させます。しかし、このイライラや無駄な時間は、指導者であるあなたには見えづらい部分です。なぜならば、指導者はとても忙しく、新人のそばでいつも面倒を見ることなどできないからです。
この問題を放置しておくと育成効率が下がり、育成スピードを上げることなどできません。では、こうした状況をどう打破したらよいのでしょうか。今回は「育成スピードを上げる環境の作り方」というテーマでお話ししていきます。
相談が苦手な新人をスピーディーに育てる方法
まず、環境づくりの前に、そもそも質問や相談が苦手な新人についてお話ししたいと思います。長年新人と接していると、教わり上手な新人と教わり下手な新人という2つのタイプが存在することに気が付きます。
前者は、周囲からうまくアドバイスをもらいながら、良い成果を出していくタイプです。後者は、周囲からの助言をうまくもらえない、あるいはもらおうとしないタイプです。
私はあるとき、(後者のタイプなのですが)自信満々の新人A君に質問しました。「なぜ全部自分でやろうとして、もっと周囲の人に頼ろうとしないの?」。これに対してA君の答えはこうでした。
「自分一人でやろうとするのが、なぜいけないんですか? だって、まわりに頼ったら負けじゃないですか。一人で対応できない人というレッテルを貼られるのは絶対に嫌です」
私は別の新人であるB君にも同じような質問をしてみました。そのB君は、A君とは少し異なり、あまり自信がないタイプの新人でした。「業務を進める際に自信がなかったら、もっと周囲の人に頼ってみたら?」。するとB君は「もっと頼りたいのですが、なんか先輩方は忙しそうで、申し訳なくて……」と答えました。
このようにタイプは違っても、周囲の先輩に頼ることを苦手と感じる新人がとても多いのです。頼ることは「できない自分を認めること」であったり、「迷惑を掛けること」などと思っているわけです。
ですから、指導者の私たちが新人に理解させるべきなのは、周囲に頼ることの意味です。その意味とは、周囲を適切に巻き込むことで、仕事をスピーディーに前に進め、より高い成果を出すということです。勝ち負けにこだわったり、相手に気を遣い過ぎることで、よりスピーディーに仕事ができる環境を自ら放棄する行為は、チームの生産性に対して明らかにマイナスであリ、早急に改めるべきということをしっかりと伝える必要があります。
では、その意味を理解させた上で、新人には具体的にどんなアドバイスをしたらいいでしょうか?
例えば、A君には「人に頼ることは負けることではないよ。うまく人に頼って、より早く良いものができるなら、そのほうが仕事の依頼者やお客さまはもっとあなたを評価してくれるのではないかな?」というアドバイスが考えられます。
一方、B君には「相談すると迷惑を掛けてしまうと思っているみたいだけど、頼るべきときに頼らず、時間がかかった割に、最後に仕事の品質が落ちたらもっと迷惑を掛けるのではないかな? 良い仕事をするためにも、怖がらずに積極的にコミュニケーションをとるべきだよ」というニュアンスで伝えてみてください。
・匠の時短質問
周囲にアドバイスを求めるのが苦手な新人に対して、
「誰かに頼るのは良くないことだと思ってないかな?」
周囲を巻き込み、みんなで教える環境を作る
現在の職場環境は、一昔前に比べるとより仕事のスピードが求められ、一人一人が抱える業務量もだいぶ増えています。そのような状況の中で、一人の指導者が新人に全てを教えきるのは限界があると感じます。
新人の育成スピードを上げるため、また育成時間の不足を避けるためにも、一人の新人を複数の担当者で教えフォローするというように、教え手の負担を分散してなるべく多くの人が関わりながら育成する環境を作ることが求められています。
現在の職場では、教える人が常に新人のそばにいられるわけではありません。教え手がいないときでも、新人が困ったらフォローできる状態を作っておくことが大切です。
新人としてはいろいろ教わったあとでも、「ここを再度確認したいな」と、ふと思うことは多いものです。説明を受けているときに、腑に落ちない部分を質問しそびれてしまうこともあるでしょう。また、細かいことや例外のケースなど、まだ教わっていないことも意外と多いので、実践に移してみると壁にぶち当たることも多々あります。
そんなとき指導員や教育係がそばにいないとなると、仕事がそこで止まってしまいます。スピーディーな育成に必要なのは、あなたが不在時に生じる新人の疑問をいかに解消できるかということです。
私も新人を指導していたとき、もう少し教える時間をとらないとと思いつつ、会議が次々と入ってしまい、そうこうしているうちに出張に行かねばならず、なかなか新人と直接会えないことも多々ありました。
そこで、私は自分がいないときに質問したくなったときの対応をあらかじめ新人に指示しておくようにしました。
「もし分からなければ、メールで聞いてきて」
「困ったら電話をかけてきて大丈夫だよ」
「この部分については、○○さんに聞くといい」
「この部分で困ったら、私以外の誰に聞けそうかな?」
そしてもし聞けそうな人がいなければ周囲の協力者に「いま、新人が○○の業務をやっているんだけど、今日私が不在になるので、もし困っていたら新人に声をかけてもらってもいいですか?」と口頭で伝えておくようにしましょう。または、本人を除いたチームの全員に、協力のお願いメールを出しておくだけでも違います。
新人の業務をなるべくストップさせない、業務効率を下げないためにも、事前に周囲への協力依頼をしておくことはとても大切です。
・匠の時短質問
外出や出張時の新人の疑問点の対応について伝えること
「疑問点は、毎日〇〇時までにメールで送ってもらえるかな?」
「外出するから、疑問点は○○先輩に聞いてもらえるかな?」
以上、「育成スピードを上げる環境の作り方」についてお伝えしました。ぜひ、新人の育成を一人で抱え込まず、第三者を巻き込みながら、みんなで新人を育ててみてください。自分で考え、職場のさまざまな先輩に質問しながら前に進んでいく新入社員は、確実に成長スピードが早まることでしょう。
著者プロフィール・島村公俊(しまむらきみとし)
人事系コンサルティング会社を経験後、2006年ソフトバンク(旧ボーダフォン)入社。ソフトバンクユニバーシティの立ち上げ参画し、研修の内製化をリードする。
日本HRチャレンジ大賞人材育成部門優秀賞、ソフトバンクアワードの受賞をはじめ、アジア初で米国教育機関よりPike’s Peak Awardを受賞。その他、千人規模の新人研修やエルダー(OJT、メンター)教育にも携わり、新人、若手の早期育成にも貢献する。
2015年に講師ビジョン株式会社創業。社内講師の育成トレーニング、OJTトレーナー研修、新人研修などを提供する。近著に『10秒で新人を伸ばす質問術』(東洋経済新報社)がある。
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