渋谷真コラム・龍の背に乗って
◇5日 中日 2―0 DeNA(ナゴヤドーム)
大野雄には「師匠」と呼ぶ先輩投手が3人いる。「技術を教わった」岩瀬仁紀さんと「生き方を学んだ」高橋聡文さん、そして「心を伝えられた」吉見だ。
2011年10月15日。勝てば優勝という前日の巨人戦で新人の大野雄は初登板し、4イニング7失点と打ち込まれた。失意のドラ1を、この年18勝の絶対エースが呼び止めた。「年明け、一緒に自主トレ行こか」。翌年1月、福岡県八女市の自主トレで吉見に入門した。
「今でも何で誘われたのかわからないんです。実績はない。投げている球も全然。あのころの僕、使える見込みなかったと思います」。吉見は投げ方やトレーニング方法は教えない。しかし、大野雄にとっては大きな転機になった。
「僕は吉見一起という投手を目指してやってきました。エースとはどういうものなのか。吉見さんはユニホームを着ているときは、常にそこを意識していました。コーチ、投手、野手、ファン、マスコミ…。常に見られていることを意識していたんです」。吉見からの金言の一つに「ランニングは一人でやれ」がある。大野雄は今も、忠実に守っている。
「マウンドは孤独やと。だからしゃべって走るな。言葉にすると簡単そうですが、もっと奥に芯の部分があるんです。言葉のレベル、領域が。この2カ月くらい、いろいろと注目してもらって、やっとあのころの吉見さんはこんな感じで毎日を過ごしていたのかとわかった気がします」
エースの心得を学ぶきっかけとなった八女自主トレに、なぜ誘ったのか。本人に代わって吉見に聞いた。
「球は速かった。でもただ、投げているだけの速さ。キャッチボールもへたで(笑)。この子はこの先、損をするなと。助けたかったんです」
行く末を案じた青年は、頼もしいエースに育った。だから大野雄にも尋ねた。誰に引き継ぐのかと。その名を聞いた。9年前の大野雄のように、まだ土中で眠るさなぎ。美しいチョウになったとき、この話の続きを書こう。
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「ランニングは一人でやれ」中日・大野雄が忠実に守り続ける吉見からの金言 マウンドは孤独…エースの心得 - 中日新聞
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