静岡DCアフターキャンペーンの掉尾を飾るはずだった
観光列車「伊豆クレイル」が引退する――そんなニュースが流れたのは2020(令和2)年1月30日のこと。「運行開始から4年ほどしか経っていないのにもう引退してしまうの!?」とか「相模線に入線するの!?」といった反応がSNS上に大量に流れて来てその注目度にビックリした覚えがあります。
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4月4日には静岡DCアフターキャンペーンのオープニング列車「春たびIZU CRAILE(伊豆クレイル)相模線から伊豆へ」が単線の相模線へ入線、そして6月28日には同CPのクロージング列車「IZU CRAILE(伊豆クレイル)LAST RUN」が運行する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の流行を受け運休。これにより「伊豆クレイル」は3月29日の運行をもって事実上の引退となりました。
コロナの影響でラストラン運行を行えぬまま消えていった列車といえばやはり世間的には東海道新幹線「700系」のイメージが強いかと思いますが、多くの乗客を乗せて走った働き者ではないにせよ、華やかな観光列車が有終の美を飾れずにひっそりといなくなるのは悲しいものです。
というわけで、今回は2月頃に乗車した写真を中心に「伊豆クレイル」に乗車したときのことを振り返ってみようと思います。
「スーパーひたち」を改造
「伊豆クレイル」は2016年7月に登場したJR東日本のジョイフルトレイン。伊豆の海を楽しみながら美味しいお食事が楽しめる若い女性向けの列車として、土日祝日を中心に小田原~伊豆急下田を1往復していました。車両はかつて常磐線の特急「スーパーひたち」として活躍していた651系1000番台を改造したもので、その際に車体の色も白からピンクの花柄へ変更しています。
651系が登場したのは1988年。JR東日本初の当時のキャッチフレーズ「タキシードボディのすごいヤツ」からも時代を感じます。それだけ長く活躍しているわけですから、すでに廃車となってしまった編成もあり、伊豆クレイルも6月28日のラストラン後に廃車となってしまうのではないか……と予想する声もありました。
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1号車と3号車は旅行商品で発売
車内の設備等を振り返りましょう。「伊豆クレイル」は4両編成で運行し、1号車は海側にカウンター席・山側にボックスシートを設置しています。2号車はバーカウンターとラウンジのあるパブリックスペースで、こちらにミュージシャンを招いて演奏会などが催されていました。3号車はコンパートメント席になっており、4人用が5区画、車いす対応のスペースが1区画。4号車は回転式リクライニングシート&固定式ボックスシートの座席です。
1号車と3号車は食事つきのツアー商品として「びゅう旅行商品」で発売されていましたが、どちらかといえば若い女性が対象の列車であるうえ「申し込みは2名様以上から」というハードルがあり、記者のような孤独な観光列車お兄さんには厳しいものがありました。日本人形の入った桐箱を撫でながら意味深に「妹も乗りたいと言っています……」などと演じても恐らくきっぷは売ってもらえなかったでしょう。
冗談はさておき、伊豆クレイルは友達の多い階級の方々にしか乗れない列車だったのかというと実はそうでもなく、4号車は「えきねっと」などできっぷを買えば誰でも乗車できる仕様でした。食事の提供といったサービスはつきませんが、他の号車よりずっと料金はお安い。当然のことながら、4号車の乗客でもバーカウンターに行けば軽食や伊豆の特産品を購入出来ます。
そう考えると、車内で豪華な食事を楽しみたいという気持ちがないのであれば、伊豆クレイルはおひとりさまにも気軽に乗れる観光列車ではあったのかなと思います。
実際に乗ってみた
本年2月「鉄道チャンネル」おひとりさま代表として乗車した日のことを書きましょう。
まずは新宿からロマンスカーで小田原へ。えきねっとで予約していたきっぷを受け取ります。引退報が流れた直後で天気も良かったからか、1月末に「えきねっと」にアクセスした時点で4号車のきっぷはほぼ売り切れの状態で、小田原駅の「伊豆クレイル専用ラウンジ」も混雑していました。
11時40分、伊豆クレイルは小田原駅を発車。出発時にはJR社員と思しき方々からのお見送りがありました。観光列車ではありがちなことですが、お見送りは出発時だけでなく道中様々な場所で行われるため、お手振りポイントに近づくたびに窓外への注目を促すアナウンスが流れます。
アナウンスと言えば伊豆クレイルの車内放送は「お見送りがあります」「13時30分からラウンジで演奏会が行われます」といった案内中心で落ち着いたものでした。五能線の「リゾートしらかみ」に乗った時は方言による民話の朗読会が始まって「話の筋が分かるような分らんような……」となったものですが。
4号車の座席には手作りの沿線案内パンフレットが用意されていました。沿線の観光名所などが紹介されているもので、絵柄も味わい深く、記者はこれを持ち帰り自宅に保管しています。
食事については乗車前に駅の売店などで購入しておくか、2号車のバーカウンターで注文するぐらいしか入手手段がありません。ただ、こちらのバーカウンターではあまりお腹の膨れるものは扱っていませんでした。この日のメニューで一番量があったのは「みそ漬けポークサンド」でしたが、12時24分の熱海到着時に積み込みが行われるとのことで、しばし待つ必要がありました。
観光列車らしいイベントとして、2号車ではアコースティックギターのライブが行われており、MCの方は「異邦人」などの懐かしの名曲を演奏しながらときおり「そろそろ相模湾のきれいなところですよ」と乗客に外を見るよう促していました。
もちろんライブは見学自由。聞きたくなったら2号車に足を運び、興味がなければ外の眺めを堪能しながら川端康成を読んだりして、誰にも邪魔されることのない乗車時間を自由に使えばいいのです。アテンダントによるサービスがないということは、乗車中の行動を自由に組み立てていいということでもあります。
そのようにして伊豆クレイルは13時過ぎに伊東に到着し、伊豆急行線へ。そのまま伊豆高原、片瀬白田などを通過していき、2時過ぎに伊豆急下田へ到着。およそ2時間半の旅路はここで終了です。
伊豆クレイルは大切なことを教えてくれた
のんびりとした2時間半ほどの旅、景色も良かったので悪くはなかったかな……とは思えたのですが、一方で正直なところ「普通にグリーン車に乗って移動してるな」という印象を抱いてしまったことも否めません。
確かに「観光列車に乗った」とは言えますが、1号車や3号車で家族連れ・友達同士でお話ししながら美味しい料理に舌鼓を打ち相模湾の美しさに目を見開き……と素敵な旅行を楽しんでいるであろう人々のことを思うと、4号車ではこの列車の真価は毛ほども味わえなかったのではなかったか、と惜しい気持ちになってしまったのです。
観光列車にはやはりそういう側面があるもので、一人より二人、二人より三~四人、気の合う仲間同士連れだって乗れば楽しさが倍増する。孤独な旅にも良さがあるとはいえ、一人では手の届かない楽しみもある。伊豆クレイルは「本当に列車を楽しむためには友達を作る努力も必要なんだ」という、個人的にはとても大事な教えを残して去っていったのです。別に友達がいないからといって僻んでいるわけではなくてね。
余談
それはさておき。せっかく伊豆に来たのだから、ということで街を見物をすることにしました。2月の伊豆は河津桜が咲き初めるころで、2月半ばごろから「河津桜まつり」が始まります。今年は30周年ということで伊豆急行線では「河津桜まつり」のヘッドマークを付けた電車の姿もありました。
そのままあてもなく下田の街を歩いていると「下田海中水族館」の文字が見えたので、徒歩で向かうことにしました。普通の人は駅前からバスで行くのだと思いますが、何しろ行き当たりばったりだったもので、山道を一時間ほど彷徨うことに。
2月の午後遅い時間帯に訪れたこともあってイルカショーの観客も20数人程度と少なめでしたが、飼育員さんとペンギンの戯れやパワーあふれるイルカの泳ぎも迫力があり、展示は知的好奇心が刺激されるものばかりでとても楽しいものでした。もし一人で伊豆急下田を訪れる機会があれば、ぜひ「下田海中水族館」のイルカやペンギンと戯れ、豊かな休日をお過ごしください。
文/写真:一橋正浩
"一人で" - Google ニュース
June 28, 2020 at 09:03PM
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